SiC半導体とは?基板の特徴や半導体としての用途を徹底解説|COLUMN|シリコン・サファイア・SiC・GaNなど半導体材料を加工も含めてご提供します。

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SiC半導体とは?基板の特徴や半導体としての用途を徹底解説

2025年4月26日

SiC 注目記事

脱炭素や自動化、電動化が求められる現代で注目されるのがSiC半導体です。
シリコン半導体では実現できなかった高耐圧・高温・高周波動作を同時に満たし、EVインバータやメガソーラー、5G/6G基地局の性能を底上げしてきました。
本記事ではそんなSiC半導体の特徴や用途、課題などを解説します。

SiC 半導体とは?基礎知識と注目される理由

SiC(炭化ケイ素)とは何か

炭化ケイ素(SiC)は、ケイ素と炭素が1:1で共有結合した化合物半導体です。
結晶多形は数多くあるものの、パワーデバイス用途では4H‑SiCと6H‑SiCが主流となっています。特に4H型はバンドギャップが3.23 eV、熱伝導率が450 W/m·Kとシリコンの約3倍という高性能を誇り、そのおかげで高耐圧でもデバイス厚を薄型化でき、オン抵抗を大幅に下げられます。
さらに耐熱上限は200 ℃を超えており、高温環境でもリーク電流が増えにくく、宇宙機器や車載エンジンルームなど過酷な現場に最適です。

SiC 半導体が従来シリコンを超えるポイント

シリコンとの最大の違いは臨界電界強度(2.8 MV/cm)とバンドギャップの広さです。これによりオン抵抗を削減できることに加え、スイッチング損失も減らすことが可能です。
結果として冷却システムやコンデンサが小さくなり、装置全体の体積と重量を削減可能となりました。EVでは航続距離が伸び、メガソーラーでは年間売電収入も向上するなど、直接的な経済メリットが得られます。

「SiC 半導体」と「SiC 基板」の関係

SiC半導体デバイスはSiC基板(単結晶ウェハ)上にエピタキシャル層を成長させ、イオン注入や金属配線を施して完成します。
そのため、基板の欠陥密度がデバイス歩留まりを左右し、BPD(Basal Plane Dislocation)やTSD(Threading Screw Dislocation)などの欠陥が多いとリークやゲートシフトが増加します。
高品質な基板の形成が、歩留まり改善とコスト低減のカギを握っています。

SiC 半導体のメリット

高耐圧・高温動作による設計自由度

SiCは臨界電界強度がSiの10倍近いため、同じ耐圧を保ったままドリフト層を薄くでき、デバイス自体の寄生容量も小さくなります。結果として高速スイッチングが可能になり、EVインバータでの周波数増大なども実現しています。
またオン抵抗はデバイスが熱飽和する高温ほど増大しますが、SiCは温度による抵抗増加率がSiより小さいため、実使用温度域での差はさらに拡大します。

高周波特性がもたらす小型・軽量化

SiC半導体の利点の一つが、優れた高周波特性です。これによりMHz帯以上のスイッチング動作でも損失が小さく抑えられます。
その結果、使用するインダクタやコンデンサといった受動部品を小型化できます。さらに熱損失が少ないため、冷却システムも簡素化でき、ヒートシンクのサイズやファンの風量を抑えられる点も大きな魅力です。

コスト・信頼性・ゲート酸化膜など残る課題

SiC半導体は多くの利点を備える一方で、依然としていくつかの技術的・経済的課題を抱えています。SiC基板は製造工程が高温・高難度であるため、同サイズのシリコン基板に比べ高価格となります。
加えて、ゲート酸化膜の信頼性も重要な技術課題の一つです。SiCとSiO₂の界面には欠陥準位が生じることがあり、品質改善が進められています。

これらの課題を克服することが、SiC半導体のさらなる普及とコストパリティ実現への鍵となります。

SiC 半導体の製造プロセス

SiC(炭化ケイ素)半導体の製造は、高温・高精度・高純度が求められる非常に高度なプロセスです。Si(シリコン)に比べて材料物性が優れている反面、加工や成長の難易度が高く、コストや歩留まりに大きく影響します。

ここでは、SiC半導体の製造プロセスを「単結晶基板の成長」から「完成デバイスの形成」まで順を追って解説します。

単結晶SiC基板の成長

PVT法は、現在最も一般的に用いられている昇華法による単結晶成長プロセスです。

  1. 原料粉末の準備: 高純度のSiC粉末をルツボに充填します。
  2. 種結晶の設置: 下部に配置された種結晶(4H‑SiC)に結晶を成長させます。
  3. 昇華成長: 高温環境下でSiC粉末を昇華させ、蒸気を種結晶に向けて再結晶化します。
  4. 温度制御: 上下温度差を厳密に制御することで、結晶面内の均一性を保ちます。
  5. 冷却と取り出し: 成長させたインゴットを冷却し、引き上げて結晶品質を検査します。

この方法は成長速度が高く、大口径化に対応できる一方、温度ムラによって結晶欠陥(BPD、TSDなど)が発生しやすい点が課題です。

PVT法以外にも、HT‑CVD法やLPE法などの方法もあります。

ウェハ加工・表面処理

単結晶インゴットを成長した後は、ウェハ(SiC基板)として使用可能な状態に仕上げていく工程に進みます。

  1. スライス: ダイヤモンドワイヤソでスライス。
  2. ラッピング: 表面を粗削りして平坦化し、曲がりを修正。
  3. 研磨(CMP): 化学機械研磨でナノレベルの鏡面仕上げを実施。
  4. イオンビーム処理/エッチング: 表面の残留ダメージや微細なステップ欠陥を除去。
  5. 洗浄: 無機・有機洗浄でパーティクル・金属汚染を除去し、エピ成長に備えます。

この段階での基板品質がエピ層や最終デバイスの性能に大きく影響するため、高度な検査技術が必要不可欠です。

エピタキシャル成長(エピ層形成)

エピタキシャル成長(通称「エピ成長」)は、ウェハ基板の上に高品質なドーピング層を形成する工程です。

CVD法を用いて、ドーピング濃度制御されたn型やp型のSiC薄膜を成長します。
厚さは数µm〜数十µm程度で、耐圧や用途によって調整していきます。
成長中にBPDなどの欠陥が転写されるリスクがあるため、基板の表面品質が重要となります。

デバイス形成(イオン注入・酸化・パターン加工など)

エピ層が形成された後、半導体素子を実際に形成するプロセスに進みます。

  1. イオン注入
  2. アニール(熱処理): 高温での活性化でイオンを拡散・再結晶。
  3. 酸化膜形成: ゲート絶縁用にSiO₂やAl₂O₃を形成。
  4. フォトリソ・エッチング: デバイス構造に応じてパターンを形成。
  5. 金属蒸着: 電極形成。

SiC半導体の製造では、単結晶基板の成長からウェハ研磨、エピ成長、デバイス形成に至るすべての工程が互いに密接に関連しており、これらの最適化が品質やコストに大きく関わってきます。

SiC 半導体の主な用途

電気自動車(EV)インバータ & オンボードチャージャー

EVの駆動インバータは、高耐圧スイッチング素子を多数並列で駆動し続ける過酷な環境です。
SiC半導体を採用すると、オン抵抗の低さと高速スイッチングのおかげでインバータ損失が減少し、冷却システムを簡素化できます。車体重量やバッテリー搭載スペースに余裕が生まれるため、航続距離の延伸や室内空間の拡大が期待できます。
同じく車載向けのオンボードチャージャーもSiC化することで、充電時間短縮と回路の小型化を同時に実現。高温環境や振動に強い点も、車両用途で歓迎される理由です。

産業用インバータ & モータドライブ

工場のロボットアーム、工作機械、HVACファンなどを駆動する産業用インバータは、長時間連続稼働が前提です。SiCモジュールに置き換えることで、変換効率が向上し発熱源が減少。ヒートシンクや筐体の小型化で設置スペースを節約でき、メンテナンス頻度も抑えられます。高速スイッチングが可能になるため、制御応答が速く、高精度なモーション制御が求められる用途にも適しています。

再生可能エネルギー用パワーコンディショナ

太陽光発電や風力発電のパワーコンディショナは、直流を交流に、あるいは電圧レベルを変換する際のロスが経済性に直結します。SiC半導体を採用すると全体効率が底上げされることに加え、発熱が抑えられるため屋外設置でもファンレス運転が視野に入り、保守コストや故障リスクを抑制できる点がメリットです。

通信インフラ(5G/6G基地局・衛星通信)

基地局用パワーアンプにおいても、SiC基板は熱伝導率が高く、チャネル温度上昇を抑制できるため、出力密度を高めつつ自然空冷を可能にします。これによりアンテナ筐体を小型・軽量化でき、ビル壁面への設置自由度も拡大。衛星通信やレーダーなど、連続高出力と温度変化が厳しい用途でも安定動作が期待できます。

データセンター & サーバー電源

データセンターでは、電源変換効率がエネルギーコストと冷却負荷を左右します。SiCを採用したコンバータは、伝導損失とスイッチング損失を同時に削減し、電源ユニットを薄型化。結果としてサーバースペースを有効活用でき、システム全体の電力使用効率改善に貢献します。

SiC半導体の業界トレンドと今後の展望

技術トレンド:大口径化と欠陥低減

現在、開発競争の焦点はより大きなSiC基板で高い歩留まりを確保することに集まっています。さらなる大口径化も視野に開発が行われていることに加え、BPDやTSDといった欠陥を減らす結晶成長技術や検査技術の開発も行われています。

アプリケーションの裾野拡大

電気自動車や再生可能エネルギー分野に加え、データセンター、配電設備、航空・宇宙、医療用高周波装置など、新しい需要セグメントも次々に立ち上がっています。これらの分野は限られたスペースで高効率を求めるため、SiCの耐圧・温度・周波数特性が強く活きる領域です。用途が多様化するほど製品群も細分化し、スイッチング速度やオン抵抗、ゲート構造などを最適化した派生デバイスが鍵となるでしょう。

サステナビリティとリサイクル

環境規制が厳しさを増す中、SiCサプライチェーンにもライフサイクル全体でのCO₂削減が求められています。高温プロセス由来のエネルギー多消費を補うため、製造用電力の再生可能エネルギー化が加速していくでしょう。サステナビリティ対応は調達条件や投資評価に直結するため、企業間の差別化要因としてますます重視されることが予想されます。

まとめ:SiC半導体は「高性能×持続可能性」を実現する次世代テクノロジーの中核に

SiC半導体は、シリコンでは到達できなかった高耐圧・高温・高周波動作を可能にし、脱炭素・省エネ・電動化の時代に不可欠な存在となっています。その実力の根底には、微細な欠陥まで管理された高品質なSiC基板の存在があります。EVや再生可能エネルギー、5G通信、データセンターなど、あらゆる最先端分野で用途が拡大する一方で、コストや信頼性、酸化膜の品質といった課題も残されています。

しかし、業界全体では基板の大口径化や製造プロセスの効率化が進み、持続可能な生産体制の整備も進んでいます。加えて、新しいアプリケーション分野や環境規制への適応が、さらなる技術革新の起点となっています。

SiC半導体はもはや“次世代”ではなく、“今”を変える技術。その成長を支えるのは、単なる高性能だけでなく、信頼性・持続可能性・多用途性という多面的な価値です。今後、SiC半導体とその基板技術は、エネルギーと情報の未来を根本から支える中核技術として、より一層の進化と普及が期待されます。

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